Manabu Watanabe
Abstract
Clusters of galaxies are the largest gravitationally-bound ensembles in the universe, which consist of hundreds of galaxies, intracluster medium (ICM) and dark matter. From the velocity dispersion of member galaxies and plasma temperature of ICM, it has been clear that the mass of dark matter is 70-90% of the total mass. X-ray observations of ICM is essential to know the dynamical evolution of clusters. The dynamical state of clusters of galaxies is determined by X-ray surface brightness and temperature distribution in the ICM. The X-ray surface brightness distributions were previously reported for many clusters, while there were limited observations for the temperature distribution within a cluster.
Japanese X-ray astronomy satellite, ASCA, allows us to obtain X-ray images and spectra with high energy resolution in 0.5-10keV region. However its X-ray Telescope (XRT) has complex Point Spread Function (PSF) depending on incident X-ray photon energy and off axis angle from the optical axis of XRT. Based on the ASCA full simulation tool, we developed the analysis software which was taken into account an effect of complex PSF.
Using this method, we analyzed 3 nearby rich clusters such as Abell 1656(Coma), the Ophiuchus cluster and Abell 2319 observed with ASCA and obtained 2-dimensional temperature distribution and surface brightness distribution in 0.5-10keV band. Since these clusters have spatially averaged temperature of 9-10keV and relatively symmetric surface brightness distribution, these have been considered to be dynamically well relaxed clusters. But we found out for the first time that these clusters have extended hot region (>1Mpc) with plasma temperature of 14keV at its periphery. There also exists a cool region in the Coma cluster with temperature of 5keV and its size of 400x800kpc. We also found out the image excess from symmetric distribution, which coincides to the cool region without any relations to the hot region.
These facts directly suggest that these clusters have not been well relaxed dynamically, but they are recently formed by the experience of cluster-subcluster merging.
Abundance distribution was obtained in the Ophiuchus cluster whose high abundance regions are mostly seen in the hot region. This cluster has 1.5 times higher averaged abundance than the other two clusters and more concentrated surface brightness profile. Therefore we conclude that this cluster is dynamically and chemically more evolved than the other two clusters.
明るい銀河団のプラズマ温度分布と衝突合体
渡辺 学
Abstract
銀河団は、宇宙の中で力学的に束縛された最大の集合体であり、数十〜数千の銀河が 〜10Mpc(1025cm)という領域に分布している。銀河団内の銀河の速度分散や銀河間高温プラズマガスの温度より、銀河団には多くの隠れた質量(暗黒物質)の存在が明らかになっている。全質量に占める暗黒物質の割合は70ー90%にも達し、銀河間高温プラズマガス(ICM)の10〜20%、銀河の数%をはるかにしのいでいる。しかし、現在までのところ、暗黒物質の正体は明らかになっておらず、直接観測することにも成功していない。このため、銀河団の力学的な進化、または宇宙の進化の研究には、銀河団を構成する第2の成分であるICMの、X線での観測が非常に大きな役割をはたす。
銀河団の力学的状態を知るためには、その表面輝度分布と温度分布を同時に知る必要がある。以前の観測では、観測機器の制約から、銀河団の表面輝度分布については詳しく調べられてきたが、温度分布についてはほとんど明らかになっていなかった。しかし、日本の4番目のX線天文衛星「あすか」により初めて、0.5-10keVというエネルギーバンドで、高分解能のスペクトルとイメージを、同時に得ることが可能となった。このような長所を持つ反面、あすかに搭載されたX線望遠鏡は、入射位置とエネルギーに依存した複雑な像の広がりを持っていた。そこで、既存のあすかfull シミュレーション ソフトを利用し、複雑な像の広がりを考慮して、銀河団の温度分布と像を同時に得ることができるソフトの開発を行なった。
この開発したソフトを用いて、3つの近傍でrichな銀河団(かみのけ座銀河団、蛇使い座銀河団、Abell2319)の解析を行ない、2次元の温度分布と0.5-10keVのバンドでのX線像を得た。これら3つの銀河団は平均プラズマ温度9.9keVと銀河団の中でも高温なプラズマ温度を示し、比較的球対称に近い表面輝度分布を示していることから、これまでは力学的に良く緩和した銀河団であると言われてきた。しかし、今回の解析より、これら全ての銀河団の周辺部で、中心部の平均温度10keVに比べ、約1.5倍程度、温度が高くなっている領域が、1Mpc以上の広い範囲に広がっていることが初めて明らかになった。また最も近傍にあるかみのけ座銀河団では、これ以外にも約800kpcに広がった5keV程度の低温領域をはじめとして、かなり複雑な温度分布を持っていることが明らかになってきた。表面輝度分布の解析では、軸対称分布からのずれが、3つの銀河団で確認、または新たに発見された。かみのけ座銀河団で、表面輝度分布でsub構造が見られた領域で、プラズマ温度が低くなる傾向が見られたが、高温領域とsub構造についてはとくに相関は見られなかった。
これらの事実は、解析を行なった3つの銀河団はまだ十分緩和していないことを示している。銀河団の中心部ではなく、周辺部に広がった高温領域があるという事実は、この銀河団がまだ力学的に十分緩和していないという直接的な証拠を示している。また、高温領域が1Mpcという広い範囲に広がっていることから、この高温領域の起源として銀河団スケールの揺らぎが必要であることが分かる。これより、この3つの銀河団は最近銀河団同士の衝突合体を起こし、現在もまだ力学的進化の途中であると結論づけた。
蛇使い座銀河団では、重元素分布の非一様性も示唆され、重元素の存在量も他の2つの銀河団に比べ、1.5倍近く多くなっていた。重元素の存在比が高くなっている領域は、主にプラズマ温度が高くなっている領域で見られた。また、表面輝度分布の分布を他の2つの銀河団に比べた場合、蛇使い座銀河団はより中心に集中した分布を示しており、この銀河団では、力学的、化学的進化の段階が他の2つと異なっていると結論づけた。