見崎一民
Abstract
活動的銀河核の中心には太陽の106〜109倍の質量を持つ巨大ブラッ クホールが存在し、そこにガスが落ち込んで重力エネルギーを解放することで その活動性を支えていると考えられている。活動的銀河核に見られる鉄蛍光輝 線は、中心核からの放射が周辺の物質と相互作用して再放射された成分であり、 中心核周辺の物質の運動状態、物理状態などの情報を提供する。鉄輝線プロファ イルの詳細な研究は10keVまでの広いエネルギー帯域、高エネルギー分解能、 といった特徴をもつ「あすか」衛星で初めてその手がかりを得ることが出来た。 「あすか」の長時間観測により、MCG-6-30-15という典型的なSeyfert銀 河の鉄輝線が非常に幅広く、非対称な輝線プロファイルを持っていることが明 らかにされた。この輝線プロファイルは、降着円盤表面から再放射されている 鉄輝線が強い重力場の影響を受けているとして理解される。これは、X線によ る鉄輝線の観測でブラックホールの重力半径の数十倍以内で起こる巨大な重力 場による現象をとらえ、活動的銀河核の中心にブラックホールが存在すること を直接示した初めての成果である。
そこで、本修士論文ではX線天文衛星「あすか」により様々に異なる明るさを 持つ4つの活動的銀河核(Ark120, Mrk509, Mrk841, Mrk937)を観測し、特に鉄 輝線に注目し解析を行なった結果、いずれも非常に広がった鉄輝線プロファイ ルを示していることがわかった。その輝線幅はgaussianの1σにして 200eV 〜 600eVの間に分布していた。さらに、いずれの天体も輝線の中心 エネルギーは中性の鉄のエネルギー6.4keVより低い傾向を示し、低エネルギー 側に裾をひいて広がっている。これらの輝線形状からMCG-6-30-15以外 の活動的銀河核にも降着円盤起源の鉄輝線が存在することが確認できた。この 結果により、この描像が一般的な活動的銀河核に対して適用出来るものである ことを示せた。
さらに、これらの様々に異なる環境、明るさを持っている天体の鉄輝線プロファ イルを比較することにより、その間の相関を探った。今回解析した4つの天体 のluminosityは、暗いものは1.2×1043ergs/secから最も明るいもの は4.0×1044ergs/secと1桁以上にわたって異なっている。さらに、 鉄輝線の強さは等価幅にして、〜100eVから〜800eV程度にばらついて いるという結果が得られた。この鉄輝線強度とluminosityとに逆相関があるこ とが示唆された。さらに、鉄輝線を幅の狭い成分と幅の広い成分とに分けてフィッ ティングした結果、その比が1/6と幅の狭い成分が強いものから、ほとんど幅 の広い成分しか見られないものまで、様々なバラエティを示した。 MCG-6-30-15の鉄輝線はluminosityの変動に伴い、暗い時には幅の狭い 成分が増えるという傾向を示しているが、今回異なる天体間では同様の傾向は 明らかではなかった。これは明るさの違う天体間で、システム自体の大きさの 違いなど鉄輝線の形状を左右する何らかのパラメータがある可能性を示唆して いる。
今後の課題として、より多くの天体を同様に解析し広い範囲にわたって様々な バラエティを探ることで、活動的銀河核の放射機構、幾何学などの全体像を明 らかにしていくことができると期待する。
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